最近、北京傑爍法律事務所の主任である朱潔瓊弁護士は、オンラインの方式で山東省弁護士協会のために弁護士実務レッスンを共有し、中国とアメリカを例として、海外関連の電子商取引知的財産権訴訟の管轄権と司法手続きに関してレッスンをした。
一、背景の紹介
2012年頃から、一部のアメリカの法律事務所は、eBayなどの電子商取引プラットフォーム上の中国本土の電子商取引業者を特にターゲットにして、知的財産(通常は商標)の権利保有者を代表してアメリカの多くの地域で侵害訴訟を起こした。あるブランドの偽造品防止訴訟では、中国国境にある被告が1,549名(ウェブサイトと電子商取引プラットフォームのアカウントに基づいてカウント)もあり、最終的に、裁判所は欠席裁判の形で2億ドルの賠償金を命じた。
これらの訴訟の特徴は、原告は外資系有名ブランドのオーナーであり、被告のほとんどは訴訟対応能力の弱い中国の中・小・微型企業や自営業者であり、訴訟原因のほとんどが商標権侵害及び著作権侵害であることである。訴訟に関わる電子商取引プラットフォームには、Amazon、Alibaba(International Station又はAliExpress)、Dhgate.comなどがあり、管轄裁判所には、イリノイ州北部地区、フロリダ州南部地区、ニューヨーク州南部地区連邦地区裁判所などがある。裁判所は、最終的に、被告に対し欠席裁判の形で賠償金の支払いを命じた。
二、中国の越境電子商取引が直面する知的財産リスク
まずは、アメリカの法律と司法慣行に対する中国の越境電子商取引業者の認識上の誤りである。中国の電子商取引業者の被告は、アメリカの司法手続きが常に長く、複雑で非効率的であると誤解することが多いが、アメリカの司法慣行によれば、被告が訴訟の提起を拒否した場合、裁判所は仮差止命令-予備的差止命令-召喚状-欠席裁判を可決することができ、これは、このタイプの訴訟を審理するための効率的かつ迅速な司法手続きである。次は、中国の越境電子商取引業者はネット販売の流行にしたがって販売するケースが多く、無意識に「他人」がチェックしていると思い込んでおり、自社の販売している商品が権利侵害になるかどうかを明確に理解していない。さらに、アメリカの司法慣行では、このような侵害事件に対して3倍の懲罰的賠償を与えることができ、意図的な商標権侵害の場合、法定賠償額は200万米ドルに上る場合がある。中国の越境電子商取引業者は、こうした補償基準についても十分に理解していない。
三、中国とアメリカの管轄ルール
1、アメリカ裁判所の管轄ルール
中国の電子商取引業者の知的財産権侵害問題は、アメリカ法の下で対人管轄権にのみ関わり、対物管轄権(in rem jurisdiction)又は準対物管轄権(quasi in rem jurisdiction)には関わらない。したがって、ここでは対人管轄権のみについて検討する。
アメリカの司法慣行によれば、対人管轄権は、特定の訴訟がフェアプレイと正義の伝統的観念(traditional notions of fair play andjustice)に違反しない限り、轄権地域(forum State)と「十分な最小限の接触」(sufficient minimal contacts)を持つあらゆる個人又は団体に適用されている。ただし、訴訟請求は、この接触から生じたものでなければならず、特定の対人管轄権の主張は合理的でなければならない。
その中で、「十分な最小限の接触」を判断する基準は、被告が管轄地域内で活動する権利を意識的に利用できるようにする一部の行為を意識的に行い、それによって被告の法的保護が発動されたことである。
したがって、ある製品をイリノイ州へ販売するか、又は販売者が製品をイリノイ州へ販売するという明確な意図を持っていることが示されただけでも、イリノイ州の裁判所が販売者に対する対人管轄権を有することになる。
対人管轄権の主張が合理的であるかどうかは、次の5つのルールから判断できる。第一は、管轄地域で訴訟を起こす被告の負担であり、第二は、管轄地域が当該事件を管轄する利益であり、第三は、管轄地域で訴訟を起こす原告の利益であり、第四は、州間の利益と司法主権との協調であり、第五は、連邦の憲法主権、即ち憲法第14条改正案に違反しない正当な手続き条項である。
上記の管轄権原則により、アメリカの裁判所は、個人及び機関がアメリカの関連する裁判所の管轄地域と「十分な最小限の接触」を持っている限り、世界中のあらゆる地点、あらゆる国にある個人及び機関に対して管轄権を行使することが可能になる。
越境電子商取引業者にとって、意識的にアメリカのユーザーに販売する場合、アメリカに足を踏み入れたことがなく、アメリカに何の機関を設立したこともなくても、アメリカの裁判所が管轄権を行使するための条件を満たす可能性が高くなる。
しかしながら、以下の2つの要素に基づいて、上記の管轄権に異議を申し立てる被告も一部ある。
(1)「意識的な利用」が存在しないと主張する。例えば、原告が「おとり捜査」をしたか、又は被告の販売数量が極めて少ない(例えば、1点ないし数点しかないか、又は棚に陳列されているだけで販売しないなど)など。
(2)管轄地域不便(Forum Non Conveniens)に対して動議を提出する。裁判所が管轄地位の都合に関して考慮する要因には、潜在的な証人の位置、関連証拠と記録の位置、被告の不当な困難、原告が持つ十分な代替管轄地域、司法資源の効率的な利用、紛争に適用可能な法律の選択、公共政策の問題、訴訟原因が生じた位置、両当事者の身元(両当事者の経済的能力を含む)、人を困らせる動機、外国管轄地域の司法的及び政治的状況などが含まれる。
越境電子商取引業者の侵害訴訟は上記の要因と一致するところがあり、例えば、訴えられている中国の電子商取引業者は、財政力の弱い中小企業や個人である場合が多く、アメリカで訴訟するのに困難がある一方、原告は、いずれも、強力な財務能力を有する有名な会社であり、且つ、同社は中国に支店を有している可能性が高いため、中国で訴訟を起こす能力があるだけでなく、利便性もある。
しかし、アメリカの州及び連邦の司法主権を考慮する点から、上記の要因はアメリカの裁判所には与える影響が非常に少ない可能性があり、且つ、中国裁判所でアメリカ法の適用という問題が生じる可能性もあり、そのため、実際には、越境電子商取引業者は、越境電子商取引業者の侵害訴訟に対するアメリカ裁判所の管轄権を揺るがすのが困難である。
2、中国裁判所の管轄ルール
『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高人民法院の解釈(法釈[2015]第5号)第25条には、「情報ネットワーク侵害行為が行われる場所には、訴えられた侵害行為のコンピュータなどの情報機器の所在地が含まれ、侵害結果が生じた場所には、被侵害者の住所地が含まれる。」と規定されている。しかし、裁判所は、『「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する最高人民法院の解釈』の第25条に規定された「情報ネットワーク侵権行為」には、ネット販売や権利侵害製品の販売許諾行為は含まれないと指摘した。知的財産権侵害紛争訴訟に、ネット販売や権利侵害製品の販売許諾行為が含まれる場合、被侵害者の住所地は事件と実際の関連性がなく、侵害結果が生じた場所として確定するべきではなく、管轄裁判所を決定するための連結点として使用するべきではない。
したがって、中国の司法慣行によれば、ネット販売が侵害に該当する場合、被告又は電子商取引プラットフォームに関連する地域により管轄するべきである。この観点から、訴えられた中国の越境電子商取引プラットフォームについて、中国の裁判所が関連事件を管轄する可能性がある。
四、司法手続き
越境知的財産権侵害訴訟を例に挙げると、アメリカの裁判所の基本的な民事訴訟手続きは次のとおりである。
ステップ1:原告が告訴する(Complaint)。
ステップ2:原告は、被告の電子商取引業者の店舗及び決済プラットフォームのアカウントを凍結するための一時差止命令(TRO)を申請する。TROの有効期間は通常14日以内であり、聴聞を必要とせず、さらには被告への通知も不要であり、その目的は、被告が情報を知った後に財産を移転したり証拠を隠滅したりすることを効果的に防止するためである。
ステップ3:原告は予備的差止命令(Preliminary Injunction)の動議(Motion)を申請する。このステップは、聴聞後に発行される予備的差止命令がTROにシームレスに続くことを保証するためのステップであり、裁判所は被告に聴聞の開催を通知し、このステップは、被告が事件に積極的に介入する最初のチャンスとなる。
ステップ4:召喚状(Summons)を発行し、被告は応答して応訴する。被告は、通常、21日以内に答弁意見を提出しなければならず、被告は、答弁期間中、様々な動議(管轄権に対する異議、管轄裁判所の不当、送達に対する異議など)を提出することができ、その後、証拠開示手続きに入り、両方の当事者が相手方にできる限り証拠を提出し、質問に答えることを要求できる。
ステップ5:裁判所審理をスケジュールし、判決(judgement)を下す。裁判所は告訴状を受け取ってから約1か月半に判決を下し、10万~200万ドルの賠償金を命じる。
被告が21日以内に裁判所に応訴しなかった場合、裁判所は原告の欠席裁判動議に基づいて欠席判決を下し、手続きがこれで完了し、被告の凍結された決済プラットフォーム口座の資金は補償金として引き出される。
五、解決策と対応
中国の越境電子商取引業者の法的意識や知的財産意識の希薄さ、また中国とアメリカの国情や司法環境の相違点などにより、中国の業者はこうした訴訟において消極的な立場に置かれることが多い。中国の業者はこれにどう効果的に対応できるでしょうか?
1、中国の電子商取引自営者の対応
中国の電子商取引業者は、他人の知的財産権の侵害を防ぐために、知的財産保護に対する意識を高め、高度に自律的になる必要があり、且つ自分が所属する業界内の代表的な商標を熟知する必要がある。告訴されると、欠席裁判を避けるために、訴訟を無視せずに積極的に対応し、適時に専門家の助けを求める必要がある。訴訟中、タイムリーに損失を阻止するために、原告の弁護士と積極的に和解ソリューションについて交渉する。
2、政府部門、業界団体及び制度的対応
政府部門は、越境電子商取引業者に対する監督を強化し、中国税関による双方向の法執行を厳格に実施し、侵害商品が出国したり店頭に並べられたりする前に調査して対処することができる。訴訟が発生すると、力の弱い中・小・微型電子取引業者は、業界団体や第三者評価機関、さらには政府機関に「法廷の友」という論証意見書の提出を求めることができる。同時に、知的財産事件応訴に伴う法的リスクを共同で解決するために、賠償責任保険や業者相互保険の保険制度を導入することができる。また、前述のとおりに、関連訴訟に対する中国裁判所の管轄を考慮してもよく、例えば、中国の越境電子商取引御者は、海外の侵害訴訟に対抗するために、中国国内で非侵害確認訴訟を提起することができる。